研究概要 |
単細胞緑藻へマトコッカスが生成するアスタキサンチン(Asx)と呼ばれるケトカロテノイドは、β-カロテンやビタミンEに優る強い抗酸化性が見い出されている。本緑藻のシストと呼ばれる胞子嚢に対して、H2O2やスーパーオキシド等の活性酸素を添加すると,新たなタンパク質の合成がなくとも、著量のAsxが生成されることを見い出してきている。本研究では、この酸化的ストレスによるカロテノイド(Car)生合成系の活性化の調節システムを明らかにすることを目的とした。本年度の研究成果を概述すると、第一に、カロテノイドやコレステロール等のイソプレノイド生合成の初期律速段階にある3-ヒドロキシメチルグルタリル-CoAリダクターゼ(HMGR)に着目し、その酵素活性に及ぼす酸化的ストレス付与の効果を検討した。HMGRの特異的阻害剤であるコンパクチン(Cmp)でシスト細胞を処理すると、Car生成が阻害されるが、活性酸素の共存時にはCmpの阻害作用が消失したので,活性酸素のCar生成促進作用点のひとつがHMGR酵素反応にあることが示唆された。さらに、Asx高生産変異株を得るために、Cmp耐性変異株をスクリーニングして、HMGR活性が向上した変異株を検索したが、単離した高生産株のHMGR活性は親株と同程度で、Ki値に若干の上昇が見られた。第二に、Asx生合成の最終段階に位置するβ-カロテンに酸素添加を行うオキシゲナーゼ・ヒドロキシラーゼ反応を検討した。Asxに至るこの酵素反応経路には、少なくとも7つの中間体が存在し解明が進んでいないが、多波長フォトダイオードアレイ分光検出器を用いたHPLCを導入して、微量のCar同定・定量を試みた結果、無細胞系の膜画分において、NADPHと酸素存在下では、β-カロテンからゼアキサンチンとともにASxへと変換されうることが明らかになった。
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