一般に報告されているS.cerevisiae細胞は16本の染色体を持ち、既にゲノムの全塩基配列は解読されている。その第III番染色体DNAの長さは約350kbpである。しかし、本研究室保の存株の中に同染色体DNA長が450kbpである株があり、この株を胞子形成させ、その胞子に由来する細胞を調べると、第III番染色体が高頻度に多型を起こし、そのDNA長が350kbpや550kbpになるものが高い頻度で出現した。また、第III番染色体DNAが長くなった細胞同士を交雑することにより、100kbp単位で、さらに長い染色体DNAにできることを明らかにした。以上の染色体多型を引き起こす領域は第III番染色体上のTHR4遺伝子座からHMR遺伝子座に至る約100kbpが重複していること。また、その領域内で不等交差が起こる事により染色体DNA長多型が起こる事を明らかにした。 一方、第III番染色体DNAが多型を起こし長くなると、細胞の性的接合反応が顕著に低下する現象が見つかった。接合反応の低下は、有用遺伝子を増幅させた細胞の遺伝育種の面で問題となる。接合能低下をもたらす原因を調査すると、フェロモン感受性に関与する遺伝子FIG2が重複DNA断片上に存在することが判った。そこで、このFIG2遺伝子を破壊し、かつ、そこに有用遺伝子を挿入することに決めた。FIG2遺伝子をPCR法により調整した。続いて、そのDNA断片を染色体組み込み型ベクターYIp5と連結したプラスミドを構築した。現在、このプラスミドに有用遺伝子であるα-アミラーゼ遺伝子を挿入している段階である。
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