Saccharomyces cerevisiaeの第III番染色体DNAの長さは約350kbpである。しかし、本研究室の保存株の中に同染色体DNA長が450kbpである株があり、この株は減数分裂に伴って同DNA長が100kbp単位で高頻度に多型を起こす。この多型の誘発機構を解明することにより、染色体を人為的に改変する新しい染色体操作の方法を開発することを目的としている。また、この多型を起こすDNA上に有用遺伝子を挿入し、人為的に有用遺伝子を染色体上で増幅し、細胞内でのその遺伝子産物の量を増加させることも目的の一つである。 多型を起こす450kbpの第III番染色体DNAでは、THR4遺伝子座からHMR遺伝子座に至る約100kbpのDNA領域が重複して存在していることを明らかとした。また、減数分裂の際にその領域内で不等交叉が起こる事により、染色体DNA長が約100kbp単位で多型を起すと推論した。 次に、重複DNA内にFIG2遺伝子が存在し、この遺伝子量が増加すると接合能が低下するという現象を発見した。そこで、この遺伝子内に目的とする遺伝子を挿入すると、FIG2遺伝子が破壊されるために、接合能の低下を防ぐことができ、かつ、その遺伝子の量を増加することができると考えられる。そこで、この可能性を検証するために、FIG2遺伝子内にURA3遺伝子を挿入することによりFIG2遺伝子を破壊する操作を行った。現在、この破壊株を用いて、染色体DNA長多型を誘導しURA3遺伝子のmRNAを測定することにより、実際に遺伝子産物の増加が起こっているのかを調べている。
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