本研究において、液中で一定時間固体試料にレーザーを照射する際、表面に吸着したガス種が気泡として発生し、この気泡がサンプリングセル上部のレーザー光透過用のガラス窓内壁に付着してレーザーの焦点が暈けるという問題があった。当初、ガラス窓を斜めにして気泡の付着を防いでいたが、レーザーの焦点を試料表面に合わせれば気泡の発生が抑えられることが分かった。以降ガラス窓を水平にして、照射位置間における蒸発の差が少なくなるようにした。また、本法により作成した溶液中では試料が微粒子の状態で存在し、沈降や器具内壁への吸着等が懸念される。そのため、溶液に酸を添加した場合や溶液の経時的変化について目的元素の信号強度をICP質量分析法により測定したが、試料粒子の沈降や吸着挙動による特に著しい影響は認められなかった。 固体試料に一連の鉄鋼標準試料を用いて作成した試料溶液と試薬から調製した標準溶液との比較を行った。マトリックスであるFe中の目的元素濃度に対して信号強度をプロットした検量線は、前者の場合においても良好な直線性を示したが、元素によっては両者の検量線の傾きに差が見られた。その差は測定元素の沸点に依存する傾向があり、選択的な蒸発が認められた。実際試料への応用では、これらの検量線における傾きの比を選択的蒸発係数として求め、標準溶液における検量線の傾きを補正することを試みた。鋼種の異なる鉄鋼試料から作成した試料溶液中のいくつかの元素について、標準溶液と予め求めておいた係数のみを用いて定量したところ、精度・正確さともにかなり良好な結果が得られた。また窒化ケイ素焼結体の場合には、定量値が保証値に比ベ30〜40%低い結果となったが、これは鉄鋼標準試料で得られた係数をそのまま用いて補正したためと考えられる。しかし従来の酸分解などに比べ、極めて短時間でファインセラミックス焼結体を溶液化できる可能性が見出せた。
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