本研究では、LAによる固体試料の直接溶液化について検討し、LA/ICP-MSの定量性の向上を目指した。まず、純水中で固体材料にレーザーを照射する方法を試みた。固体試料として一連の鉄鋼標準試料を用いて試料溶液を作成し、鉄鋼試料中の含有率に対して溶液中の目的元素の信号強度をプロットしたところ良好な直線性を示した。しかし、試薬から調製した標準溶液との比較では、元素によって両者の検量線の傾きに差が見出された。その差は測定元素の沸点に依存する傾向があり、選択的な蒸発が認められた。予め補正係数を求めておけば、鋼種の異なる鉄鋼試料でも標準溶液のみを用いてかなりの精度・正確で定量できた。また窒化ケイ素焼結体の場合には、定量値が保証値に比べ30〜40%低い結果となったが、従来の酸分解などに比べ極めて短時間で溶液化できる可能性が見出せた。 次に、通常のLAにより生成した試料粒子をArで搬送して溶液中に溜め、この溶液をICP-MSで標準溶液を用いて分析する方法を検討した。液中でLAを行った方法と同様に、一連の鉄鋼標準試料を用いて試料溶液を作成した。鉄鋼試料中の含有率に対して、溶液中の目的元素の信号強度を直接プロットした場合、各元素とも標準溶液による検量線とは一致せず、測定点もばらついた。マトリックスのFeを内標準として強度比をプロットすると、Co及びMoは標準溶液による検量線とよく一致し、Moのような高沸点元素の場合に観測される選択的な蒸発を軽減できた。しかしSbのように傾きが多少小さくなる元素も見出された。窒化ケイ素焼結体分析への応用では、定量値、測定精度ともにかなり良好であり、極めて短時間でファインセラミックス焼結体を分析できる可能性が見出された。今後、溶液中へのガス吹き込み部の改良等によって粒子捕集時の安定性や効率が増大すれば、本法はより一層の定量性ならびに実用性が得られるものと思われる。
|