トレーサビリティ(究源性)体系の確立は分析化学における正確さの確保のため重要な課題であり、同位体希釈/質量分析法はこの目的のために最も適した分析法と考えられる。本年度は誘導結合プラズマ(ICP)分析法を用いてその評価を行うための基礎として、生物・環境試料中のガリウム(Ga)およびアンチモン(Sb)のトレース分析法を研究した。Gaはガリウムヒ素半導体や診断用放射性医薬品さらには高カルシウム血症治療薬として重要である。まず微量金属の高感度分析法として代表的な黒鉛炉原子吸光法によるGaの定量法を検討した。Gaは定沸点のハロゲン化物や酸化物として原子化以前の段階で測定系外に輝散しやすいことが知られているが、本研究では黒鉛管のTa炭化物被膜処理と、硝酸アミニウム-硝酸ニッケル-硝酸の混合マトリックス修飾剤との併用により、高感度・高精度な測定を可能とし、岩石標準試料中のGaの定量への応用した。一方、ICP質量分析法による血清試料中のGaの定量に関する研究では、NaClの存在下において塩化物イオン由来の分子イオン干渉と非分光学的干渉が問題となり、^<69>Gaよりも感度は若干劣るものの^<71>Gaで測定を行った方が前者の影響を受けにくく、さらにCo内標準法を用いることにより後者の補正が可能になることを明らかにした。続いて同位体希釈/ICP質量分析法によるアンチモン(Sb;最近の環境基準において要監視項目の一つとして設定された)の定量に関する研究を行った。スパイクとして^<121>Sb安定同位体を用い、スパイク量の最適化および活性アルミナカラムを用いるSbの前濃縮法について検討したのち、河川水及び生物標準試料中のSbの定量へと応用した(現在投稿中)。
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