研究概要 |
鉄スクラップを製鋼原料として再利用する際に管理が必要とされるトランプエレメントを高い精度と正確さで定量できる簡易な高感度化学分析法を開発した。具体的には,煩雑で,熟練と時間を要する分離操作を全く行わずに直接定量が可能なストリッピングボルタンメトリーを応用した分析技術を確立した。精秤した鉄鋼試料を加熱酸分解後,定電位もしくは開回路(無電解)で一定時間濃縮して電極上に目的成分を析出する。静置後,示差パルスモードにより電位を定速走査し,析出物の溶出の際に得られる溶出曲線のピーク高さまたはピーク面積から,標準溶液で作成した検量線を用いて目的成分を定量する。鉄(III)の妨害は,ヨウ化カリウムまたはL(+)-アスコルビン酸を加えて鉄(II)へ還元して、あるいは鉄(III)-リン酸錯体を利用して抑制した。銅,モリブデンはグラッシーカーボン電極を,ヒ素,アンチモン及びスズは金膜電極を用いたアノーディックストリッピング法,テルルは銀電極を用いたカソーディックストリッピング法,クロムはグラファイト電極を用いた吸着ストリッピング法により精確に定量できた。また,亜鉛,カドミウム及び鉛はアノーディックストリッピング法により,銅,鉛及びカドミウムは定電流ストリッピングアナリシスにより同時定量できた。相対標準偏差と検出限界は,それぞれ数%と10^<-8>〜10^<-9>Mであり,分析所要時間は1時以内であった。本申請課題で開発した方法は環境負荷の高い分析操作を必要とせず,現行法とは全く原理の異なる酸分野直接法であり,トランプエレメントを簡便迅速に,高い感度と精度で分析できる。
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