本研究の目的は、電子状態計算法と分子力学計算法を組み合わせた理論的手法(MO-then-MM法およびIMOMM法)を用いて、置換基による有機化学反応の立体制御の立体的要因を探り、反応設計へ資することを目的としている。 我々は、これまでに、MO-then-MM法を用いてKaminsky型錯体触媒によるポリプロピレン挿入のタクティシティ制御の理論計算が可能であることを明らかにしてきた。一方、近年、このようなdブロック遷移金属錯体だけではなく、4fランタニド錯体を触媒として用いるオレフィン重合が報告されるようになってきた。これらの場合には、しかしながら、タクティシティもしくはその制御機構がdブワックの遷移金属錯体と異なる可能性がある。4fブロックのランタニド原子はdブロック原子よりも大きく、ポリマー末端やプロピレンのメチル基がCp環上の置換基から遠いからである。そこで、この点を明らかにするために、MO-then-MM法を用いた理論計算を行った。まず、H_2SiCp_2SmCH_3とエチレンの反応の遷移状態をMP2法で決定し、Cp環上にメチル置換基を導入するとともに、エチレンの水素のひとつをメチル基で置き換え、プロピレンの立体選択的挿入反応をシミュレートした。その結果、4族のdブロック遷移金属錯体触媒の場合と異なり、Secondary insertionが選択的に起こりうること、しかも違った機構でタクティシティが制御される可能性が明らかとなった。
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