本研究の目的は、電子状態計算法と分子力学法を組み合わせた理論的手法(MO-then-MM法およびIMOMM法)を用いて、置換基による有機化学反応の立体制御の要因を探り、反応設計へ資することである。そこで、次の反応の理論研究を行った。1)Pd-BINAPHOS錯体触媒によるCOとプロピレンの不斉交互共重合反応の反応機構と選択性発現機構の理論的解明、2)Sm錯体によるプロピレン重合における選択性制御、3)Rh-BINAPHOS錯体触媒による不斉ヒドロホルミル化反応の選択性発現機構解明の三つである。1)ではPd-(COCH_3)(PH_3)(P(OH)_3)^+のPd-C結合へのプロピレン挿入をDFT法を用いて検討し、反応機構を明らかにした後、MO-then-MM法でBINAPHOS配位子による立体選択性を検討した。その結果、レジオおよびエナンチオ選択性はBINAPHOS配位子の立体効果に起因することを明らかとした。2)ではSmメチル錯体とエチレンの反応の遷移状態をMP2法で決定した後、反応系に置換基を導入し、プロピレンの立体選択的挿入反応をMO-then-MM法でシミュレートした。その結果、4族のdブロック遷移金属錯体触媒の場合と異なり、secondary insertionが選択的に起こりうること、しかも違った機構でタクティシティが制御される可能性が明らかとなった。3)では不斉の発現するRh-H結合へのオレフィン挿入過程について、RhH(CH_3CH-CHCH_3)(CO)(BINAPHOS)の場合の遷移状態をIMOMM(B3LYP:MM3)法を用いて計算を行い、構造決定を試みた。しかし、計算ではホスフィンもしくはカルボニルが解離し、必ずしも実験の選択性を再現する結果が得られなかった。さらなる方法論の検討が必要と考えられる。
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