金属を含む化合物の基礎的な素反応を理解することは無機化学と有機化学の接点であり、今後の境界領域の学問の発展に重要である。今年度は金属触媒反応としてZiegler-Natta反応の反応メカニズム、及び軌道対称性理論の基礎的解釈及びその発展のためにブタジェンとそのシリコン誘導体の環化反応について取り扱った。具体的な方法としては反応物から遷移状態、生成物にいたる反応経路をIRC法により求め、この反応経路に沿ってLMO-CENTROID解析、CAS-LMO-CI解析を行なって、電子の動的過程を調べることによりメカニズムの解析を行なった。 (1)Ziegler-Natta触媒反応について。heterogeneous型の触媒反応として、以前に提唱されているモデルよりより現実的なモデルにもとずいて非経験的分子軌道計算を行なった。反応メカニズムとしては以前に我々が提唱したpull-push反応メカニズムであった。また、このモデルに基ずいてこの触媒反応においてよく知られている立体規則性について調べた。計算の結果、立体規則性は最初のモノマーの付加においては見られず、2番目以降のモノマー付加において現われることが明らかになった。特に、反応メカニズムの中で、錯体生成の過程では立体規則性は現われず、遷移状態においてこの立体規則性が支配されることを明らかにした。 (2)ブタジェン、及びそのシリコン誘導体における環化反応と軌道対称性。ブタジェン及びそのシリコン誘導体における環化反応の遷移状態、反応経路(共旋、逆旋)を非経験的分子軌道法を用いて計算した。この結果にもとずいて、解析を行ない、共旋及び逆線のエネルギー障壁の差の半分は構造のエネルギーであり、残りの半分が軌道の位相によるものであることを明らかにした。
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