1. 昨年度の本研究により、層状結晶CS_<0.68>Ti_<1.83>O_4の層間のCs^+は、Li^+とNa^+のアルカリイオンや水素イオンとイオン交換可能であることを見いだした。試料はイオン伝導性を示し、いずれのイオンも層間で移動しやすい性質を持つことがわかった。本年度は、この性質を利用して、層間に種々の遷移金属イオンを導入し、生成物の性質について調べた。 2. CS_<0.68>Ti_<1.83>O_4は昨年度と同様の方法で合成した。Ni^<2+>、Cu^<2+>およびCo^<2+>について調べた。これら遷移金属イオンの導入はすべて塩化物水溶液を用いたイオン交換法により行った。生成物に含まれる層間の金属イオンは、原子吸光分析により定量した。 3. まず、CS_<0.68>Ti_<1.83>O_4層間のCs^+と遷移金属イオンを直接交換することを試みた。しかし、数十パーセントのCs^+が層間に残ることがわかった。そこで、いったんCs^+をすべてLi^+で交換した試料Li_<0.68>Ti_<1.83>O_4・nH_2O合成し、これをさらに遷移金属イオンと交換することとした。この生成物はいずれも単一相となり、層間水を含み、結晶の各層内の構造は保持されることがわかった。Ni^<2+>とCo^<2+>の場合は、試料の交換容量よりも多くのイオンが層間に導入されたが、これは、層間のアクア錯イオンの加水分解によると考えられる。 Cu^<2+>の場合は、交換容量よりも少ないイオンが導入され、一部水素イオンが含まれると考えられる。拡散反射法によって光吸収スペクトルを測定したところ、Ni^<2+>とCu^<2+>を導入した試料は水溶液とほぼ同様であったが、Co^<2+>を導入した試料では可視部の吸収帯が長波長側にシフトし、桃色から青白色に変化した。本研究により、CS_<0.68>Ti_<1.83>O_4層間のアルカリイオンはNi^<2+>、Cu^<2+>、Co^<2+>の遷移金属イオンとイオン交換可能であることがわかった。
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