研究概要 |
本年度の研究実施計画に従い,まずアレニルシクロプロパンの環拡大転位反応について,詳細に検討を行った。その結果,触媒としてはロジウムの中性及びカチオン性錯体が適切であり,ベンゼン中数時間の加熱還流により円滑に転位反応が進行することがわかった。例えば,シクロプロパン環上が無置換のアレニルシクロプロパンに対し,5mol%のWilkinson錯体を触媒とし,ベンゼン中1時間半加熱還流したところ,円滑に環拡大転位反応が進行し,対応するメチレンシクロペンテン誘導体が88%の収率で得られた。このようなアレニルシクロプロパンの環拡大転位反応は,高温下での熱異性化反応により数種の生成物の混合物が得られると報告されているのみであり,本反応は,穏和な条件下触媒的に単一の生成物が高収率で得られた初めての例である。 次に,シクロプロパン環上に置換基を有する2置換型アレニルシクロプロパン誘導体を用いて反応を検討した。このような場合,シクロプロパン環上の炭素ー炭素結合の切断される位置により,2種類の位置異性体が生成する可能性があり,その選択性についても併せて検討を行った。その結果,基質および触媒の組み合わせにより,異なる位置の炭素ー炭素結合切断をそれぞれ高い選択性で行え,対応する置換メチレンシクロペンテン誘導体が高収率で得られることもわかった。即ち,アルキル置換シクロプロパンの場合には主に立体的要因により置換基のない側の炭素ー炭素結合が切断されるのに対し,芳香族置換シクロプロパンの場合には,カチオン性のより高い触媒を用いると,シクロプロパン環のイオン的開裂により置換基のある方の炭素ー炭素結合を選択的に切断することが出来ることを見出した。 このように,ロジウム触媒を用いた炭素骨格再構築を経る不飽和結合系の新規構築反応を見出すことができた。
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