研究概要 |
平成10年度では、主に触媒的不斉水素化反応によるβ位に窒素官能基を持つα-アミノ酸の触媒的不斉合成法の開発を試みた。その成果は、以下の2項目に大別される。 1. 光学活性α,β-ジアミノ酸の触媒的不斉合成 E体のα,β-ビス(アセタミド)アクリル酸エステルの触媒的不斉水素化反応を検討したところ、申請者等の開発した遷移金属に対しトランスでキレート配位する不斉配位子PrTRAPのロジウム錯体触媒が最も高い触媒活性及びエナンチオ選択性を示し、最高81%eeの光学活性α,β-ジアミノ酸誘導体をほぼ定量的に得た。本反応はsyn特異的に進行し、トレオ体のα,β-ジアミノ酸誘導体のみが得られてきた。また、本反応の原料となるE体のα,β-ビス(アセタミド)アクリル酸エステルの立体選択的な合成法も開発した。 2. 光学活性ピペラジン-2-カルボン酸類の触媒的不斉合成 4位に窒素原子を持つ環状のテトラヒドロピラジン-2-カルボキシアミドの触媒的不斉水素化反応を検討したところ、遷移金属に対しトランスでキレート配位する不斉配位子i-BuTRAPのロジウム錯体触媒が最も高い立体選択性を示し、最高97%eeの光学活性ピベラジン-2-カルボン酸誘導体を得た。本化合物はMerck社により開発されたHIVプロテアーゼ阻害剤Crixivanの合成中間体として非常に有用な化合物である。また興味深いことに、本反応ではi-BuTRAPと同じ立体配置を持つMeTRAPを不斉配位子として用いた場合、最高85%eeでi-BuTRAPを用いた場合とは逆の鏡像異性体が得られてきた。 また本研究においては、上記2例以外にα位に四級不斉炭素中心を持つ光学活性β-ケト-α-アルキル-α-アミノ酸の触媒的不斉合成法の開発にも成功している。
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