DNA二重らせん内のチミンの光二重化反応ではチミン分子の空間での配向が制御され、その光反応は高感度で可逆的である。本研究は、DNA中のチミンの制御された分子配向をシミュレートした誘導体を分子設計し、その光二重化反応性および可逆性との関連性を検討して、超高密度・超高速の可逆的光記録材料の実現を目指している。 チミジンの単独重合体を用い、紫外線の照射による光二重化の生成と、光二重体の解裂反応を検討した。その結果、らせんを形成する条件では光反応性が高いことが明らかとなった。DNAらせん中でのチミンの光反応を光記録材料として利用するためには、固体フイルムでの反応が必要である。フイルムを形成するチミン化合物の光反応の研究結果から、光可逆性の発現には、やはりチミンの配向が重要な因子であることが明かになった。チミン光二重体には四つの異性体が存在するが、その中には、解裂反応が容易なものとそうでないものがある。たとえば、DNAではチミンは配向しているのでcis-syn型の光二重体を生成するが、cis-syn型は容易に光解裂を起こす。しかし、フイルム中でチミンの配向がランダムな化合物では、光解裂が困難な異性体が蓄積し、可逆性が消滅してしまうことが解明された。そこで、本研究ではさらに、チミンの配向をDNAと同じcis-synに固体化したチミン二重体を設計して、光反応を検討した。その結果、この化合物は溶液、フイルムなどの状態を変化させても光可逆性が実現されることを確認した。 平成10年度には、DNA中のチミンの分子配向により近い配向を持ったチミン二重体を設計し、完全な可逆的光二重化を目指し、可逆的光記録材料の実現を追求していきたい。
|