P-450酵素類似の酸化触媒反応の開拓とそれに基づく有機合成への展開を目的として研究を行った。低原子価金属錯体触媒と過酸化物によるP-450酵素型酸化反応の一般性と適用範囲の検討を行い、ルテニウムやオスミウム触媒存在下、種々の芳香族第3アミン、環状アミドをアルキルヒドロペルオキシドおよび過酢酸で酸化することにより窒素のα位に選択的にアルキルジオキシ基およびカルボニル基が導入できることを明らかにした。アルカンの酸化における分子間および分子内同位体効果等の速度論的考察から、これらの反応がオキソ金属による不活性C-H結合の活性化を鍵とする酵素類似の反応機構により進行することを示した。 上記の研究過程から分子状酸素とアルデヒド存在下、低原子価遷移金属錯体からオキソ金属活性種を発生させる手法を見出し、この原理に基づいて種々の金属錯体を触媒とするβ-ラクタムや炭化水素の酸素酸化反応を開拓した。この新規反応の基質に対する適用範囲を検討した結果、シクロヘキサンからシクロヘキサノンへの変換が、ルテニウム錯体と脂肪族アルデヒドを用いることにより温和条件下常圧の酸素雰囲気下で効率よく行えることを明らかにした。本触媒反応における選択性や触媒効率等の実用性の検討は、次年度以降の継続課題として残された。
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