第14族化合物を選択的に官能基化するための触媒を開発するためには、第14族元素と触媒機能の高い遷移金属中心との相互作用に関して研究を行う必要がある。本研究においては、ケイ素-ケイ素間あるいはスズ-スズ間に直接結合を有する有機ジシランあるいは有機ジスタナンを第14族化合物として用いた。そして、遷移金属錯体としては有用な錯体触媒反応が極めて広範に開発されている白金ホスフィン錯体、パラジウムホスフィン錯体を選んだ。本研究においては有機ジシラン、スタナンは室温という温和な反応条件下白金あるいはパラジウム金属中心に酸化的付加することを見いだした。得られた錯体のX線結晶構造解析を行った。それによると得られた錯体はすべて平面四配位構造からねじれた構造を取っており、最大の二面角はジシリル白金錯体において38°に達した。また、得られた錯体は溶液中室温においてこれまで報告例のない分子内回転を行っていることが明らかになった。このうちパラジウムジスタニル錯体では、配位子として有するホスフィンの解離・配位の速度が核磁気共鳴スペクトルのタイムスケールに比べ速く、非常に幅の広いスペクトルを与えた。一般に第14族化合物の錯体触媒反応にはパラジウム錯体触媒が対応する白金錯体触媒に比べて高い触媒活性を示すことが知られており興味深い挙動と考えられる。以上、本研究においては有機第14族化合物の官能基化触媒を開発するのに必要な基本的な知見の発見に成功した。
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