研究概要 |
新しい基本的な、かつ汎用性の高い選択的炭素骨格形成反応の開発は、有機合成化学、有機工業化学の鍵反応となりうる極めて大きな意義を持つ。本研究では、我々が既に見い出し報告しているアセチレンとオレフィンとの[2+2]付加環化反応における鍵中間体と考えられるルテナシクロペンテン錯体を有機合成反応に利用することを目的とし、種々の生理活性物質の基本骨格となりうるシクロペンテノン骨格の高効率構築法として、エンイン類の接触的分子内Pauson-Khand反応の開発を行った。その結果、例えばRu_3(CO)_<12>触媒存在下、8-nonen-3-yne-6,6-dicarboxylate(1a)の分子内環化カルボニル化反応が、極性アミド溶媒中、良好に進行し、対応する双環シクロペンテノン,Dimethyl 2-ethyl-3-oxobicyclo[3.3.0]oct-1-ene-7,7-dicarboxylate(2a),が収率75%で得られた。本反応においては、アセチレンとオレフィンとの[2+2]付加環化反応に高い触媒活性を示したCp^*RuCl(cod)[cod:1,5-cyclooctadiene]錯体は全く触媒活性を示さず、[RuCl_2(CO)_3]_2錯体を用いた場合には、カルボニル化反応が進行する前にルテナシクロペンテン中間体からβ-水素脱離/異性化が進行し生成したと考えられるDimethyl 2-methyl-1-(1-propenyl)cyclopenten-4,4-dicarboxylate(3a)が副生成物として得られた。さらに、触媒としてRu(cod)(cot)[cot:1,3,5-cyclooctatriene]を用い、160℃で反応を行った場合には、2aが脱モノメトキシカルボニル化を受けたMethyl 2-ethyl-3-oxobicyclo[3.3.0]oct-1-ene-7-carboxylate(4a)が収率64%で得られた。溶媒としてはN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、DMF等の極性アミド溶媒が最適であり、THF、トルエンを用いた場合には、副生成物3aの生成量が増加した。本反応には種々のエンイン類が適用可能であり、アセチレン末端にメチル、エチル、n-プロピル、n-ブチルおよびTMS基を有するエンイン類、およびオレフィン上の末端および内部に置換基を有するエンイン類、いずれを用いた場合にも、対応するシクロペンテノン誘導体が高収率で得られた。 本反応は、接触的Pauson-Khand反応としては、コバルト、チタン触媒についで3例目、ルテニウム触媒としては最初の例であり、ルテナシクロペンテン中間体を経由して進行する極めて興味深い反応と考えられる。今後、本反応を分子間反応へ拡張すると共に、ルテナシクロペンテン、さらには(マレオイル)ルテニウム中産体を経由する新規炭素骨格形成反応の開発を目指し、シクロブテンジオン類とオレフィンとのカップリング反応等についても検討する予定である。
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