研究概要 |
平成9年度の研究により、ルテニウム錯体触媒を用いるエンイン類の接触的分子内Pauson-Khand反応の最初の例を見い出し報告したが、本年度は、さらに接触的分子間Pauson-Khand反応を開発することを目的とし、ルテニウム錯体触媒存在下、アセチレン類とオレフィン類との交差力ルボニル化反応について検討を行った。その結果、予想されたPauson-Khand反応生成物であるシクロペンテノン誘導体は全く得られず、一酸化炭素が2分子取り込まれたアセチレン類とオレフィン類との新規交差カルボニル化反応が進行し、対応するヒドロキノン誘導体が高収率で得られることを見い出した。例えば、RU@@S23@@E2(CO)@@S212@@E2触媒存在下、N-メチルピペリジン中、4-オクチンと2-ノルボルネンとの交差力ルボニル化反応が良好に進行し、一酸化炭素初圧60気圧加圧下、140℃、20時間の反応により、対応するヒドロキノン誘導体,4,5-Dipropyltricyclo[6.2.1.0@@S12.7@@E1]undeca-2(7),3,5-triene-3,6-diol,が収率85%で得られた。溶媒としては、N-メチルピペリジンが最も有効であり、その他の溶媒として例えば、THFやトルエンを用いた場合には、アセチレン2分子と一酸化炭素2分子のみから生成するキノン(例えば、アセチレンとして4-オクチンを用いた場合には、2,3,5,6-Tetrapropylcyclohexa-2,5-diene-1,4-dione)が、相当量副生した。また触媒としては、RU@@S23@@E2(CO)@@S212@@E2錯体以外にも[RuC1@@S22@@E2(CO)@@S23@@E2]@@S22@@E2および[(η@@S16-@@E1C@@S26@@E2H@@S26@@E2)RuCl@@S22@@E2]@@S22@@E2錯体が触媒活性を示したが、これらの錯体を触媒に用いた場合にも、相当量のキノンが副生した。本反応には、4-オクチン、3-ヘキシンおよび2-ヘキシン等の種々の内部アセチレンが適用可能であり、それぞれ、2-ノルボルネンとの反応により、対応するヒドロキノン誘導体が高収率(単離収率でそれぞれ、72%、65%、83%)で得られた。一方、オレフィンとしては、ノルボルネン骨格が必須であり、他のオレフィンとして、エチレン、1-ヘキセンおよびシクロペンテンを用いた場合には、4-オクチンとの反応では、対応するヒドロキノン誘導体は全く得られなかった。本反応は、アセチレンとオレフィンとの酸化的環化反応により生成するルテナシクロペンテン中間体を経由して進行しているのではなく、アセチレン配位ルテニウム錯体と、一酸化炭素2分子から生成すると考えられる(マレオイル)ルテニウム錯体を鍵中間体として進行していると考えられる。本研究は、ルテニウム錯体触媒の新規カルボニル化能を明らかにしたものであり、平成9年度に開発したエンイン類の接触的分子内Pauson-Khand反応と併せて、有機合成化学および有機工業化学の立場から興味深いルテニウム錯体触媒を用いる新規カルボニル化反応の開発に成功した。
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