研究概要 |
新しい基本的、かつ汎用性の高い高選択的炭素骨格構築反応の開発は、有機合成化学、有機工業化学の鍵反応となりうる極めて大きな意義を持つ。本研究では、アセチレンとオレフィンとの酸化的環化反応により生成するルテナシクロペンテン錯体およびルテニウムを含むいくつかのメタラサイクル錯体を鍵中間体とする新規炭素骨格構築反応を開発することを目的として検討を行い、以下の成果を得た。まず、1)種々の生理活性物質の基本骨格として重要なシクロペンテノン環構築法として、ルテニウム錯体を用いるエンイン類の接触的分子内Pauson-Khand反応を開発した。例えば、Ru_3(CO)_<12>触媒存在下、8-nonen-3-yne-6,6-dicarboxylateの分子内環化カルボニル化反応が、極性アミド溶媒中、良好に進行し、対応する双環シクロペンテノン、dimethy1 2-ethy1-3-oxobicyclo[3.3.0]oct-1-ene-7,7-dicarboxylate,が収率75%で得られた。本反応には種々のエンイン類が適用可能であり、アセチレン末端、およびオレフィン上の末端および内部に置換基を有するエンイン類、いずれを用いた場合にも対応するシクロペンテノン誘導体が高収率で得られた。本反応は、接触的Pauson-Khand反応としては、Co,Ti触媒についで3例目、ルテニウム触媒としては最初の例であり、ルテナシクロペンテン中間体を経由して進行していると考えられる。さらに、2)本環化カルボニル化反応を分子間反応に拡張する過程において、一酸化炭素が2分子取り込まれたアセチレン類とオレフィン類との新規交差カルボニル化反応が進行し、対応するヒドロキノン誘導体が高収率で得られることを見い出した。例えば、Ru_3(CO)_<12>触媒存在下、N-メチルピペリジン中、4-オクチンと2-ノルボルネンとの交差カルボニル化反応により、対応するヒドロキノン誘導体、4,5-dipropyltricyclo-[6.2.1.0^<2,7>]-undeca-2(7),3,5-triene-3,6-diol,が収率85%で得られた。本反応はアセチレンと一酸化炭素2分子から生成する(マレオイル)Ru錯体を鍵中間体として進行していると考えられる。
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