研究概要 |
有機合成で炭素源として一酸化炭素を用いる方法は,省資源,省エネルギーの観点から非常に重要である.特に,一酸化炭素による炭素-炭素結合生成反応の課程で,触媒的不斉反応により不斉を導入する手法は重要な課題である.本研究課題では申請者が既にその端緒を見いだしている以下の2つのカルボニル化反応において,光学活性ホスフィン配位子を有するパラジウム錯体を用い,不斉反応への展開について検討した. 1.申請者はアリルエステルの効率の良い触媒的カルボニル化反応を見いだしている.特にリン酸アリルは非常に高い反応性を有しており,ゼロ価パラジウム錯体触媒存在下,効率よく一酸化炭素による炭素-炭素結合生成反応を行うことができる.本反応を不斉反応に展開することを目的として検討した結果,光学活性単座ホスフィン配位子のみが本反応においては不斉配位子として働くことを明らかにした.現在の所,40%eeの不斉収率が達成されているが,これはアリル化合物の不斉カルボニル化反応の初めての例である. 2.申請者プロパルギルエステルのカルボニル化反応において,リン酸プロパルギルが非常に高い反応性を有しており,ゼロ価パラジウム錯体触媒存在下,効率よくアレンカルボン酸エステルを与えることを明らかにしている.本反応においては光学活性リン酸プロパルギルからは光学純度を損なうことなく光学活性アレンカルボン酸エステルが生成する.光学活性二座ホスフィン配位子を有するパラジウム錯体を用いてラセミ体のリン酸プロパルギルのカルボニル化反応を行ったところ,光学活性アレンカルボン酸エステルが生成するとともに,回収したリン酸プロパルギルに不斉が観測され,本反応系において速度論的分割が行えることを明らかにした.
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