有機合成で炭素源として一酸化炭素を用いる方法は、省資源、省エネルギーの観点から非常に重要である。特に、一酸化炭素による炭素-炭素結合生成反応の課程で、触媒的不斉反応により不斉を導入する手法は重要な課題である。本年度は申請者が既にその端緒を見いだしているプロパルギルホスフェートのカルボニル化反応を利用した不斉反応への展開について検討した。 1. 申請者は従来よりプロパルギル化合物のカルボニル化反応に於いて、プロパルギルホスフェートが非常に高い反応性を有することを明らかにしており、パラジウム触媒存在下極めて温和な条件下で相当するアレンカルボン酸エステルを選択的に合成する手法を開発している。本反応を光学活性な基質に適用したところ、反応は立体反転で進行し、光学純度を損なうことなく軸不斉アレンカルボン酸エステルが合成できる。光学活性アレンカルボン酸エステルは、その特異な構造と反応性から不斉反応への応用が期待されるが、一般的で効率の良い合成法はない。本反応の一般性について詳細に検討し、本法がカルボニル化を伴う不斉転写によるアレンカルボン酸エステルの一般的合成法として利用価値の高いものであることを示した。 2. ラセミ体のプロパルギルエステルを基質とするカルボニル化反応において、触媒として光学活性パラジウム錯体を用いると、パラジウム原子上に構築された不斉環境により、両エナンチオマーで反応速度に差が生じ、ラセミ体のプロパルギルエステルの速度論分割が可能であると考えられる。この原理に基づき、光学活性キレートホスフィン配位子を有するパラジウム錯体を触媒に用いて、ラセミ体のプロパルギルエステルのカルボニル化反応を行ない、エナンチオマー区別速度論分割による光学活性アレンカルボン酸エステルの合成を行った。本法はラセミ体の基質から、触媒量の不斉源を用いて、光学活性アレン化合物を合成する初めての例である。
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