本研究では、環状エノンとアレンの[2+2]光反応で入手容易な多環状メチレンシクロブチルケトン類の骨格転位反応を系統的に検討し、官能性多環状化合物への新しい骨格変換法の開発を行った。さらに本合成法の有用性を実証するために、その手法を応用して、テルペノイドの合成研究も行った。具体的には、平成9年度に引き続き、6-4縮環型ケトン類の酸触媒骨格転位反応を精密化し、その結果を詳細に整理分類して、用いた酸触媒と基質の橋頭位置換基の差異が反応に及ぼず影響について考察した。実際に基質ケトンと酸との希薄溶液の赤外吸収スペクトルの結果より、カルボニル基に四塩化チタンは配位するが塩化アルミニウムは配位しないことが判明し、昨年度の酸のカルボニル基への親和性の度合いによって反応性の差異が説明できるという推論を実験的に確認した。さらに、同族体の5-4縮環型ケトンの酸触媒骨格転位反応も、四塩化チタンを5当量用いて短時間で反応を終えることにより架橋7員環ケトンが良好な収率で得られることを見いだした。このケトンを用いて、特異な架橋中員環構造を有し強力な抗ガン作用を示す天然物タキソールのAB環部からなるモデル化合物の合成を行った。まずそのケトンのカルボニル基を還元・保護し、エキソメチレン部を酸化してケトンに導いた。次いでα位のアリル化によって得られるアリルケトンをエノールトリフラートに変換後、分子内鈴木-宮浦クロスカップリングを用いて、架橋7員環溝造の5員環部にさらに5員環が縮環した三環性化合物を良好な収率で得た。このオレフィン部のオゾン酸化により、タキソールのAB環骨格を有する目的の架橋10員環ジケトンを得ることに成功した。
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