高立体選択的な炭素-炭素結合形成の達成のために、環状糖質構造を「キラル補助部」と見立てた高度な不斉誘導の実現のため、我々は初年度D-グルコピラノースのC-4位を反応場とする分子内アルドール反応、ならびに分子間1、4-共役付加反応(マイケル反応)について検討した。まず基質として、2、3位をアシル基またはベンジル基にて保護したメチルα-D-グルコピラノシド類のC-6位にピバロイルオキシ基、C-4位にエノラート生成部としてプロピオニルオキシ基をもつ化合物を合成した。種々の塩基条件を検討したところ、分子内アルドール型反応の進行は認められたが、化学収率(20%程度)、ジアステレオ選択性(およそ3:2)共に実用的なものではなかった(塩基としてカリウム ビス(トリメチルシリルアミド)、溶媒としてTHF)。ついでC-6位に脱離基(ヨード基)を、C-4位にプロピオニルオキシ基をもつ基質に関して分子内アルキル化(δ-ラクトン形成)を検討した。その結果、2、3位がピバロイルオキシ基の場合、50%程度で環化体を与えたが、ジアステレオ選択性は約2:1と満足ゆくものではなかった。また、分子間反応として1、4-共役付加反応を検討した。基質としては、C-6位にヨード基、C-4位にクロトニルオキシ基をもつ基質を合成し(2、3位はベンジルオキシ基)、これらの基質にビニル銅錯体にて1、4-共役付加を起こさせたところ、両基質よりも専一の付加体が高収率にて得られた。付加体のX線構造解析、両者由来の誘導体の相関により、いずれの生成物も同一のRの絶対立体配置でビニル基が導入された事が判明した。すなわち、本反応は完璧な不斉誘導で進行し、糖骨格部が有効なキラル補助部として機能したことが確認された(投稿準備中)。
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