研究概要 |
ヘキソピラノース骨格が形成する三次元構造を「キラルな環境場」として捉え、その結果期待される不斉誘起による高ジアステレオ選択的な炭素-炭素結合形成反応の開発を目的とし、平成11年度は以下の課題を主に検討した。昨年度までに高いエナンチオ選択性の発現が確認されているD-グルコピラノース誘導体へのアルキルラジカル種による共役1,4-付加反応を検討した。すなわち、メチル6-デオキシ-α-D-グルコピラノシドのC-4位に1,4-付加受容部となるクロトニルエステル部を有し、C-2,3位の水酸基が様々に保護された誘導体を調製した(シリル保護体、アシル保護体、ならびにエーテル保護体)。これらの基質に対し、ルイス酸の存在下にアルキルラジカルを付加させ、その結果得られる生成物のジアステレオ選択性と、キラル補助部としての糖部分を除去し得られるβ-位がアルキル置換されたブタン酸のエナンチオ過剰率の双方をHPLC等の手法にて精査した。その結果、最高90%e.e.までの立体選択性を与える基質を設計できた。他のヘキソピラノース骨格をキラルな環境場としたジアステレオ選択的な炭素-炭素結合形成に関しても検討した。メチルα-D-ガラクトピラノシドに関しては、C-3位にクロトニル基をもち、またC-2,4,6位の水酸基を種々に保護した基質を調製した。これらの基質に対し、銅アート錯体を用いたビニル基の付加反応を種々検討した結果、98:2という高い選択性にて付加体を与える基質を見出した。また、メチルα-D-マンノピラノシドに関してはビニル基の共役付加反応に対して、C-3位にクロトニル基をC-2位水酸基をアシル基にて保護した基質を用いた場合に、9:1程度のジアステレオ選択性が観測されている。なお予備実験の段階ではあるが、マンノノース誘導体を用いたディールス-アルダー反応における立体選択性に関しても検討し、興味ある知見を得ている。
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