研究概要 |
本研究では,シリコン骨格次元およびサイズの制御された有機シリコン高分子を合成し,その光・電子物性におけるケイ素骨格の影響や量子サイズ効果を明らかにすることを目的した研究を行った。これまでに,主鎖が1次元シリコン状の高分子であるポリシリレシや2次元平面状シリコンに対応するポリシリンの合成・物性は報告されていたものの,有機シリコンと無機シリコンの境界領域を埋める構造・物性を有する3次元状のケイ素骨格を有する可溶性有機シリコン高分子は報告されていない。本研究では,テトラクロロシランを出発原料としたマグネシウム金属による重合反応によって,シリコンクラスター表面が有機置換基で修飾された構造を有する可溶性3次元ポリシランである有機シリコンナノクラスターを合成した。排除体積カラムを用いた測定では,有機シリコンナノクラスターのサイズとしては,lnmから2nm程度の大きさが示唆された。有機シリコンナノクラスターの光物性におけるサイズ効果を検討するために分別沈殿を行い種々のサイズの試料を得た。光・電子物性におけるケイ素骨格の影響や量子サイズ効果を検討するために,時間分解発光スペクトル等の測定を行った。有機シリコンナノクラスターの発光スペクトルは,これまでに報告されているポリシリレンやポリシリンなどの有機シリコンの発光とアモルファスシリコン等の無機シリコンの発光の間の波長領域に観測された。これは,有機シリコンナノクラスターの有する3次元ケイ素骨格に起因する。有機シリコンナノクラスターの発光スペクトルは,シリコンクラスターサイズの減少とともに,量子サイズ効果による顕著な高エネルギー側へのシフトを示した。さらに,有機シリコンナノクラスターの励起状態におけるエキシトンの挙動に及ぼすサイズ効果の影響を,時間分解発光スペクトルを用いて明らかにした。また,有機シリコンナノクラスターは,真空下での熱処理によって,有機置換基の脱離を伴うケイ素骨格の再配列を起こしながらアモルファスシリコンや微結晶シリコン等の無機シリコンへと変換されることが,発光スペクトルやラマンスペクトルの測定から示唆された。
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