本年度は、液晶性、非晶性および結晶性のように異なる相状態を形成しうるブロック鎖が繋がれた構造を持つ高分子化合物について、その形成する秩序構造とその形成機構について明らかにすることを目的に、さらに実験を進めた。液晶性のブロック鎖としては、分子内水素結合により棒状構造をとるポリ(γ-ベンジルL-グルタメート)(PBLG)を、非晶性ブロックとして室温で液体状態のポリプロピレンオキサイド(PPO)を、結晶性ブロックとして柔軟性は高いが結晶性の良いポリエチレンオキサイド(PEO)を用いた。その結果、以下に示すような結果を得た。 (1) PEO-b-PBLGが溶液状態で形成する秩序構造(会合体ミセル)について、光散乱法を用いて調べた。ジクロロエタン/エタノール混合溶媒中では、昨年度報告した微量の水を含むジクロロエタン中とは逆にPBLGをコアとする会合体を形成する。PBLG組成の高い共重合体では、温度降下に伴い会合体は急激に大きくなるが、PBLG組成が小さい場合、会合体の大きさの変化は緩やかであった。 (2) PBLG-g-(PPO-b-PEO)の固体状態での秩序構造について、小角X線散乱法を用いて調べ、PBLG-g-PEOの結果と比較した。前者では、後者で見られなかった200Å程度の恒等周期が観測され、これはPEO鎖の融解により消失した。このことから、非晶鎖の存在の有無やPEO鎖の融解-結晶化など、成分鎖の相状態が高次構造に影響を及ぼすことが示された。 以上の結果と昨年度の結果と併せ、成分鎖の組成や相状態、温度、環境、セグメントが凝集する順序などが、PBLG、PPO.PEO鎖を含む三元ブロックあるいはグラフト共重合体の秩序構造およびその形成に果たす役割についての知見を得ることができた。
|