既に作成していた熱分析とX線散乱の同時測定装置の感度を向上させて、熱分析と振動分光の同時測定装置を試作した。感度向上とノイズレベル低減のために、示差走査熱量計の増幅器を新たに購入した。 試作した同時装置を赤外分光光度計に設置して、ポリフッ化ビニリデンの融解状態からの結晶化過程を測定した。その結果、融解状態のランダムコンフォメーションからトランス-ゴ-シュコンフォメーションの連鎖が形成された後に、α型の結晶化による発熱が観察された。このことから、高分子の様に長い分子が規則構造を形成するためには、コンフォメーションの秩序化が結晶化に先行して起こると考えられる。さらに結晶化の進行に伴って、トランス-ゴ-シユからトランス-トランスコンフォメーションヘの変化が生じ、同時にα型からγ型への転移が起こった。転移のダイナミックスの解析から、α-γ転移は固相で起こる結晶転移であり、二段階のプロセスを経て起こることが明かとなった。 結晶化に先立つコンフォメーションの秩序化過程が、高分子の結晶化過程で一般的に観察される現象であるか、またポリフッ化ビニリデンのα-γ転移の二段階のプロセスがどの様な現象であるかは、今後の研究の課題である。本研究で試作した熱分析と振動分光の同時測定装置は、高分子の秩序化過程を系の内部エネルギーというマクロな観点と、分子コンフォメーションというミクロな観点から同時に観察する点で、高分子結晶化誘導期の現象を明かにする新しい研究手法である。
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