今年度は個別に取り込んでいた熱分析と振動分光のデータを、パソコン上で一括して解析が行なえるように改善した。また、新たに振動分光計の光学系を改良して、熱分析装置を水平に振動分光計の内部に設置できるようにした。この改良の結果、熱分析データの安定性が向上した。 シンジオタクチックポリスチレン(SPS)のガラス状態からの結晶化過程を熱分析と振動分光測定の同時測定を行ない、その結果を熱分析とX線散乱同時測定の結果と比較した。SPSは融解状態からの急冷によって、結晶化度が0に近いガラスを得ることができる。このSPSのガラスを昇温すると、ガラス転移温度から融解温度の間の領域で二つの発熱が観測された。同時測定の結果、ガラス転移温度直後の発熱ではコンホメーションの秩序化が進み、15nmの距離周期を持つ密度ゆらぎが出現する。融解直前の発熱では、コンホメーションの秩序化は完全に終了しており、近距離秩序が形成される。また、秩序化エンタルピーの約半分はコンホメーション秩序化によるものであると推定された。高分子のガラスからの秩序化はコンホメーション先行型で進行することが明らかになった。
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