研究概要 |
示差走査熱量計とフーリエ変換赤外分光高度計の同時測定(DSC-FTIR)により、高分子およびモデル化合物の結晶化過程、特に結晶化誘導基における秩序化過程を解析した。同時測定用DSCの感度を向上させ、1mgでの測定を可能とし、FTIRの高速スキャンモードで測定することで、DCSと同じ時間分解能で現象を観察することに成功した。この方法を用いて、ポリフッ化ビニリデン(PVDF),シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、n-アルカンの結晶化を含む相転移の解析を行った。 PVDFの融解状態からの結晶化過程では、ランダムコンホメーションからトランス-ゴーシュコンホメーションの連鎖が形成された後に、α型の結晶化による発熱が観察された。さらに結晶化の進行に伴って、トランス-ゴーシュからトランス-トランスコンホメーションへの変化が生じ、同時にα型からγ型への転移が起こった。転移のダイナミックスの解析から、α-γ転移は固相で起こる結晶転移であり、二段階のプロセルを経て起こることが明らかとなった。 SPSのガラス状態からの結晶化過程を熱分析と振動分光測定の同時測定を行ない、その結果を熱分析とX線散乱同時測定の結果と比較した。SPSは融解状態からの急冷によって、結晶化度が0に近いガラスを得ることができる。このSPSのガラスを昇温すると、ガラス転移温度から融解温度の間の領域で二つの発熱が観測された。同時測定の結果、ガラス転移温度直後の発熱ではコンホメーションの秩序化が進み、15mmの距離周期を持つ密度ゆらぎが出現する。融解直前の発熱では、コンホメーションの秩序化は完全に終了しており、近距離秩序が形成される。また、秩序化エンタルピーの約半分はコンホメーション秩序化によるものであると推定された。高分子のガラスからの秩序化はコンホメーション先行型で進行することが明らかになった。
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