全芳香族ポリイミドは耐熱性、電気的特性および機械的特性に優れることから宇宙航空産業や電子産業を中心に様々な分野で特殊エンプラとして使用されている。しかし、そのほとんどが黄色〜赤褐色に強く着色しているため、無色透明性が高度に要求される分野では利用が制限される。芳香族ポリイミドの着色は、本質的には、酸二無水物部分とジアミン部分との間の電荷移動錯体形成というポリイミドの化学構造そのものに起因することが知られている。今回、半経験的分子軌道計算によって、全芳香族ポリイミドの着色の原因は、HOMO-LUMO遷移が支配的な分子内電荷移動であることを明らかにした。われわれが独自に開発した各種多脂環構造テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとから完全に無色透明なポリイミドを合成し、これらが従来の芳香族ポリイミドと比べて低誘電率であることをIBM社との共同研究から明らかにした。複屈折率が殆ど0であるという実験結果も合わせると、本ポリイミドが「光・電子集積回路(OEIC)用有機材料」として有望であることがわかった。また、多脂環構造のジアミンとから、これまで合成が困難と言われてきた芳香環を全く持たない全脂肪族ポリイミドの合成にも成功した。全脂肪族ポリイミドは、耐熱性に優れ、可溶性でかつ完全に無色透明で、誘電率は2.5-2.6とポリイミドとしては極めて低いことがわかった。これは、"耐熱性高分子は、テフロンなどの少ない例を除いて、芳香環を含む"という既成概念を根本から覆す可能性にも繋がっている。さらに、多脂環構造テトラカルボン酸二無水物と感光性部分を持つ芳香族ジアミンとからネガあるいはポジ型感光性ポリイミドを合成し、感度および解像度などの基本物性を明らかにした。
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