研究概要 |
地熱発電の出力規模を決定する生産井の噴出量は,地熱流体が流動する開口性断裂の透水性に依存する。地熱流体からの熱水性鉱物の生成に伴う自己閉塞作用により,この透水性は断裂形成期から今日に至る過程で低下し,現在も進行している可能性がある。これを解明するため,岩手県葛根田地熱地域を研究対象地域とし,(1)生産井の噴気試験時に噴出した岩片の鉱物学的研究と流体包有物試験(2)地熱流体の上昇帯における代表的な熱水性鉱物である硬石膏の流体包有物試験と硫黄同位体測定(3)熱水性鉱物-地熱流体間の化学平衡論的検討(4)硬石膏のカソードルミネッセンス観察を実施した。 噴出岩片は地熱流体の流入箇所付近に分布する岩石が地熱流体の流動によって削られて地表に噴出したもので,緑簾石・ぶどう石・ワイラケ沸石・自形石英などの熱水性鉱物で構成される。熱水性鉱物の共生関係は,地熱流体が地層中の開口性断裂を流動する過程で温度の低下とともに緑簾石・石英・ぶどう石が晶出することによって,断裂の透水性は次第に低下していったことを示唆する。地熱流体の上昇帯に分布する硬石膏は,第四紀葛根田花崗岩の定置後に種々の塩濃度(35wt% NaCl +CaCl_2eq.以下)を有する沸騰化石流体から主に生成したと推察される。生産井の噴気試験時に採取した噴出流体の化学組成データを用いて,熱水性鉱物-地熱流体間の化学平衡計算を行った結果,(1)硬石膏は上昇帯では現世地熱流体から生成し易い(2)地熱流体はぶどう石と平衡であることがわかった。 2年間にわたる研究により,地熱流体が流動する開口性断裂の透水性はぶどう石などの熱水性鉱物の生成によって低下途上にあると結論される。今後の地熱開発事業者による開発リスクの低減を図るためには,硬石膏のような複数の生成時期をもつ熱水性鉱物については,最新の地熱流体から生成したものを特定する必要があり,カソードルミネッセンスはこの有力な方法となりうる可能性がある。
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