研究概要 |
イネの種子の主要部分は胚と胚乳で結成されるが、これらの器官のサイズ比がどのような遺伝的制御のもとで決定されているかを明らかにすることは、種子生産を目的とするイネの育種にとっても極めて主要である。しかし,このような観点からの研究は、これまでほとんど行われて来なかった。そこで、本研究では、発生過程における両器官の相互作用性に注目し、これに関与していると思われる多数の突然変異体を用いて遺伝育種的観点から研究を進めた。 まず、粒形、粒大の異なる品種、系統を加えた正常品種を用いて重量比から胚と胚乳のサイズ比に見られる変異を推定したところ、正常品種の多くでは胚の占める割合が2〜3%(重量比)の範囲に分布した。一方、巨大胚系統では6〜7%小胚、無胚系統では1%〜0%であった。胚のサイズに関係する突然変異体のうち、巨大胚遺伝子(ge)の作用性を粒大の異なる遺伝的背景下で調査したが、胚の巨大化とシンクサイズとの間における相互作用性は観察されなかった。 次に、巨大胚、小胚、無胚性突然変異体を用いて相互交雑実験により遺伝子間のエピスタシスを検討した。本研究で申請した装置を用いてF_2およびF_3世代の種子における表現型を調査したところ、実験に用いた全ての組合せにおいて、例外なく胚のサイズを小さくする方向が上位に働くことが判明した。しかし、無胚性突然変異件(em1)では、geの作用を抑制する効果は完全ではなく、em1の有する温度反応性を利用した実験では、正常胚ないしeml単独のホモ型より、ge、eml二重劣性型におけるemlの作用が明らかに低下する傾向を示したことから、geとem1座の間には何らかの拮抗的な相互作用性が存在することが示唆された。
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