ダイコンにおける雄性不稔性細胞質の分布およびそれと対応した稔性回復遺伝子の分布を調査した。 1.ダイコン類における雄性不稔性細胞質の分布;ダイコンの雄性不稔はミトコンドリアのorf138遺伝子によって引き起こされる。この遺伝子内の塩基配列を用いてPCRを行い、orf138の分布を調査した。その結果、雄性不稔性遺伝子は我国の野生ダイコン(マハダイコン)、野生種(R.raphanistrum)に多く分布する一方で、栽培ダイコンではごく一部の品種にしか存在しないことが明らかになった。 2.雄性不稔性遺伝子内の変異;ミトコンドリアのorf138を持つ栽培・野生ダイコンについて、同遺伝子内の塩基配列を調査した。その結果、全414塩基のうち7ヶ所に突然変異が認められ、この変異に基づいてダイコンのorf138の塩基配列は9タイプに分類された。このうち、ハマダイコンおよび野生種に広く分布するBダイコンがorf138の祖先型配列と考えられた。更にこのorf138遺伝子を持つ細胞質は、野生種からハマダイコンおよび栽培ダイコンへ伝えられたものと推定された。 3.ダイコン類における稔性回復遺伝子の分布;雄性不稔細胞質を持ち、実際に雄性不稔を示すダイコンを母本として、多くのダイコン品種と交雑を行った。得られたF_1の花粉稔性を調査して各品種における稔性回復遺伝子の有無を判定した。その結果、野生種およびハマダイコンには稔性回復遺伝子が存在した。一方栽培ダイコンのうち、ヨーロッパと中国の品種には稔性回復遺伝子があるものの、日本の品種は大部分が回復遺伝子を持たないことが明らかとなった。このように稔性回復遺伝子の有無に関して、野生ダイコンと栽培ダイコンおよび栽培ダイコンに品種間で明瞭な遺伝的分化が認められた。
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