本研究は、高等担子菌類ヒラタケPleurotus ostreatus(Jacq.:Fr.)Kummerの交配において認められたミトコンドリアDNA(mtDNA)の分子間組換え機構の解明を目的に行われた。組換えフラグメントの一つ、REC-A(7kb)の生成に関与する組換え親mtDNA内の領域をフィジカルマップの構築およびREC-Aをプローブとしたサザン解析により推定し、それらの塩基配列を決定した。組換え親mtDNA内の推定組換え領域は互いに2 kb以上の共通な配列を有し、その共通配列はそれぞれがもつ1および2個の1.2〜1.7kbからなる固有の配列領域(非共通領域)によって分断されていることがわかった。一方、REC-Aおよびその周辺領域は両組換え親mtDNAで認められた共通および非共通配列のすべてを保有し、その構造は一方の組換え親mtDNAへの他方にしか存在していない非共通領域の挿入により生じたと考えられた。共通配列の一部は菌類で報告されているcytochrome oxidase subunit 1(cx1)遺伝子のエキソンと、非共通領域の配列はcxlで認められているgroup I intronの配列と相同性を示した。非共通領域のintron様配列はいずれもORFを有し、その内部にintronのmobilityに関係するendonucleaseの特徴であるLAGI-DADG motifをコードしていることが明らかとなった。以上の結果より、REC-Aはcx1遺伝子領域内において、一方の組換え親mtDNAだけに存在するイントロンがそれを保有していない他方のmtDNAへ転移する遺伝子変換型組換えによって生じたものと判断された。さらに、組換え体mtDNAの構造から、他の領域においても同様のメカニズムによる組換えの関与が推察された。
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