圃場で育成したダイズ植物体の個体の老化は、開花後5週目から顕著になり、8週目で植物体は完全に枯死した。莢は開花後2週目から視認できる程に生育するが、この時期から莢の除去を開始すると、個体の老化は大幅に遅延した。莢の生重は時間と共にほぼ直線的に増加することを考慮すると、この結果は老化が単に莢と葉の栄養物質の競合によって始まるのではなく、若い莢が何らかの老化開始シグナルを出していることを示唆している。莢に含まれるアブシジン酸(ABA)が個体の老化を引き起こしている可能性がまず考えられたため、莢に含まれるABAの経時的変動を調べた。測定はtt-ABAを内部標準物質として用い、高速液体クロマトグラフィーにより行った。開花後2週目の莢のABA含量は2μg/g生重程であったが、その後の1週間で5μg/g生重まで増加し、以後は少しずつ減少し8週目では1μg/g以下となった。一方コムギの第一葉を用いたクロロフィル保持試験を用いて、莢に含まれる老化促進活性を調べたところ、莢の酢酸エチル可溶性分画には強い老化促進活性が認められた。莢の生育に伴うこの分画の活性は開花後2週目から3週目にかけて、著しく増加し、その後は高い活性を維持した。この活性の経時的変動をABA当量に換算すると最大では25μg/g生重となり、検出されたABA含量の最大値の5倍に達した。したがって莢に含まれる老化促進活性はABAのみでは説明できず、何らかの未知の老化促進物質が存在するものと思われた。現在、様々なクロマトグラフィーを用いて、活性物質の純化を試みている。
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