耐早性の差が大きかったトヨハタモチと水原287の種の2品種に絞ってポット実験により同一土壌水分減少下での生理機能の品種比較を行った。また、中生陸稲品種ツクバハタモチと深根性とされるゆめのはたもち、IRATl09浅根性とされるハタキヌモチを供試して圃場試験を実施した。主要な結果は以下の3点に要約される。 1. 同一の土壌水分減少下でトヨハタモチの方が水原287よりも光合成速度の低下や巻葉が早く起こったが、最上位完全展開葉身の水ポテンシャルは夜明け前の値にも日中の低下も品種間で顕著な差が認められなかった。トヨハタモチは水ストレス初期に日中の浸透ポテンシャル低下が小さく、このため圧ポテンシャルの低下が早く、水ストレス下で葉が早く巻くと考えられた。日中の浸透ポテンシャルと糖含量の間には直線的な関係がみられ、水ストレス下での巻葉の品種間差には糖蓄積の差異が1つの要因と考えられた。 2. 水ストレス下での出液速度の低下と出液中のサイトカイニン濃度には顕著な品種間差は認められなかった。 しかし、葉位別にサイトカイニンを定量したところ、水原287は上位3葉身とも高かったが、トヨハタモチは最上位完全展開葉のみ高くそれ以外の葉身では著しく低かった。サイトカイニンの分析は緒についたばかりなので今後分析技術の向上を図りつつさらに研究を進めていく所存である。 3. 畑栽培で登熟期に乾物生産の多かったツクバハタモチ、ハタキヌモチの2品種は、出液量が多く葉の老化が少ないという対応関係がみられた。これらの品種は出穂後に1次根数が増加しており、株もとから発生した弱小分げつ(ひこばえ)からの発根があった。このような新根の発生が根の生理機能やサイトカイニン合成に及ぼす影響について陸稲の乾物生産向上と耐早性の生理機構解明の面から今後さらに研究を進めていく所存である。
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