研究概要 |
本研究は水稲の多収品種の1つである日印交雑品種水原287号が畑栽培条件下で旱魃年にも多収を示したこと(尹ら1997)を端緒に,ポット栽培で耐旱性の品種比較を行った結果同一の土壌水分低下において光合成,物質生産に品種間差が認められたことからその生理機構について水ポテンシャル,浸透調節,根の機能とくにサイトカイニン合成の面から比較,解明することを目的に企画した.本研究の結果,水原287号は土壌水分低下によるイネ体内の水分状態が悪化しても光合成,物質生産の低下が少ない水ストレス耐性が高いことを確認した.その生理機構として,気孔が閉じにくく光合成を継続することで葉身中の糖含量が日中増加し,水ポテンシャルが低下しても浸透ポテンシャルの低下が大きく膨圧を低下させにくい性質を持つことが示された.このような葉の生理機能の維持に根の生理活性が関与するかどうかについて根から地上部に送られる出液から検討を行ったが,水ストレス下での出液速度の低下と出液中のサイトカイニン含量(trans-zeatineribosideおよびdihydrozeatineriboside)には明確な品種間差は見出せなかった,今後分析技術の向上を図りながら結合型サイトカイニンを含めた検討を進める所存である.本研究ではポット実験と並行して圃場実験を企画したが,試験年は日照時間が極端に少なくまた出穂前には未曾有の大雨にみまわれ,水ストレスのない条件下での品種比較しかできえなかった.その中で畑栽培で登熟期に乾物生産の多かったツクバハタモチ,ハタキヌモチの2品種が出穂後に1次根数が増加するという結果をえた.これらの品種では株もとから発生した弱小分げつから発根がみられ,出液量が多く葉の老化が少ないという対応関係があった点が注目された.このような新根の発生が根の生理機能やサイトカイニン合成に及ぼす影響について陸稲の乾物生産と耐旱性向上の視点から今後さらに研究を進めていく所存である.
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