土壌の物理性に対応した種子根の応答を明らかにするため、浮き苗率が低いCAWWA/FORTUNA6-103-15と浮き苗率が高く苗立ちの不良なコシヒカリを用い、低弾性寒天培地を用いたモデル水田系によって検討した。モデル系を作成する上で最も重要なのは粘性を自由に設定できるような流動性培地の作成である。本研究では低弾性の「ウルトラ寒天AX-30」をベースに、陶器用「木節粘土」を水100mlに対して1gの割合で混合しミキサーで撹拌することで弾性が極めて低く粘度だけを変化させることのできる有機物と鉱物混合ゲル培地を作成した。粘度は1から700cpまで連続的に変化させ、種子根などの生長を調べた。 粘度に対する応答曲線は品種間で全く異なり、高苗立ち性品種は粘度が高まった場合に種子根の単位長さあたりの回旋回数が大幅に増加したが、コシヒカリは変化しなかった。苗立ち性を支配する形質の一つと考えられる種子根のらせん生長は200cp以下の極めて弱い粘性の場合でも発現し、物理的刺激に対して敏感に反応するものと考えられた。また、浮き苗が少なく高苗立ち性を示す品種は粘度が増すにつれて種子根の伸長速度が低下することに特徴があると考えられた。 コシヒカリが伸長量が相対的に大きいことはオーキシン生成量が多い可能性と、感受性が高い可能性の二つが考えられる。種子根長も相対的に長いことから前者の可能性がある。オーキシン生成量が多いとすればエチレン生成量も多くなり、回旋性が発現すると推察されるが、これが認められないということは、エチレンに対する感受性が鈍いことが示唆される。コシヒカリの種子根の伸長量と単位根長あたりの回旋数が培地の粘度を変えても変化しないことはこのことを支持すると考えられた。浮き苗率が小さく高苗立ちを示すメカニズムとしてはエチレンに対する感受性が普通の品種に比べて高いことが示唆された。
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