研究概要 |
ハス(Nerumbo nucifera)における体内の通気組織の構造と機能を調べた。ハスの通気組織内のガスの圧力は日中では通常大気圧よりも100Pa程度高いガス圧が存在しており,夜間にはガス圧が低下して大気圧と変わらなくなる。特定の葉位の葉身から吸収されたトレーサーガス(エタン)は地下茎の通気組織を通じてその葉と連絡する他の葉位の葉に移動し,葉身中央部に存在する隆起部「ヘソ」から大気中に放出される。しかし葉身部からは放出されない。葉身および葉柄の連続切片を作成して,そこに存在する通気組織の走行と連絡状態を調べた。その結果,葉柄部には向軸側と背軸側のそれぞれ2つの大きな空洞(Lacuna)が認められ,それらは葉身と地下茎の通気組織を接続している。葉柄を上昇する空洞は葉身内において放射状に分散し,最終的に葉身内を放射方向に走行する空洞群と接続する。空洞の葉身中への分枝は背軸側の2つの空洞では相対的に下部で始まるのに対して,他の2つの空洞ではやや上部で開始することが示された。背軸側の空洞は分枝を派生した後も縮小せずに「ヘソ」部表面直下に達し,そこから「ヘソ」部表面に開口していた。「へソ」部表面には,気孔の形態をした大きさ数十μmの開口構造が密に分布するのが観察され,ここから空洞内を上昇してきたガスが大気に放出されると考えられる。いっぽう向軸側の空洞ペアは「ヘソ」部直下において縮小し,表面に開口していないことが明らかとなった。「ヘソ」部表面に観察される気孔様の開口部が,能動的に開閉し体内のガス交換を制御している可能性が示唆された。
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