研究概要 |
低投入条件における水稲の生産力ポテンシャルの向上を意図し,初期生長速度の遺伝的変異ならびにその要因を明らかにしようとして,平成10年度は前年度から引き続き広範な遺伝子型の収集・増殖を行うとともに,生育特性が著しく異なる8品種・系統を供試して,初期の葉面積展開の差異が乾物生産に及ぼす影響について圃場実験を行った。 1, 国際イネ研究所から窒素利用効率が特徴的に異なる34系統,静岡大学農学部から熱帯アジアの在来イネである熱帯ジャポニカ・インディカ各9系統の割譲を受け,これにその他の数機関からの割譲種子を加えた計80系統を京都大学農学部研究水田において栽培した。初期生長の状況を圃場観察するとともにそれぞれの種子約200gを採種した。 2, ごく長稈の中国江蘇省産在来イネ,国内産在来イネ,日本晴および多収系のタカナリを含む計8品種を,無窒素施肥条件で群落栽培し,それらの葉面積展開過程および乾物生産過程を比較した。中国産在来イネは他の供試品種に比べて初期の葉面積展開が速かったが葉身の窒素濃度が低く推移した。中国産在来イネは,受光日射の変換効率が他の品種よりも劣るものの生育初期の受光日射量がまさるために,生育前半の乾物生産は供試品種の中で最も優れており,生長における窒素利用効率が高いと評価された。このことから,窒素供給が制限される栽培条件においては,葉面積展開の旺盛な初期生長特性が,乾物生産において実質的な利点を有するものと考えられた。
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