果実における糖組成は、品質決定要因として重要である。スクロースとして果実に運ばれてきた光合成産物は、多くの場合グルコースとフルクトースに分解された後、キナーゼによってリン酸化され、呼吸やデンプン合成等に利用される。本研究では、このキナーゼが糖組成を決定する一要因であると考え、特に最も甘い糖であるフルクトースをリン酸化するフルクトキナーゼに注目した。すなわち、本酵素遺伝子の生理的役割の解明と、アンチセンス遺伝子の導入に伴うフルクトースレベルの向上による甘さの増進を試みる。 まずフルクトキナーゼのトマト果実における発現組織の解明と機能の検討を行うため、トマト果実の切片を作製し、これにフルクトキナーゼcDNAより調製したRNAラベルプローブをハイブリダイズさせ、トマト果実のどの組織にシグナルが得られるか解明した。その結果、フルクトキナーゼ1は組織全体に一様に発現していたが、フルクトキナーゼ2は中果皮の内層及び種子とその周辺に局在していた。おそらくフルクトキナーゼ1は細胞の基本的な代謝に関与する酵素であるのに対して、2はデンプン合成及び種子成長など炭化水物を多く吸収すると思われる組織で機能すると考えられた。現在、両フルクトキナーゼ遺伝子のアンチセンス遺伝子を作成し、トマトへの形質転換を行っている。はじめに用いたプロモーターはエチレン誘導型のE8プロモーターであったが、フルクトキナーゼ活性の抑制が不十分で糖組成に変化は見られなかった。これは本プロモーターが果実成熟期でのみ働く誘導型のため、アンチセンス遺伝子の発現が遅かったためと考えられる。現在、構成的に発現するカリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターを用いて同様の実験を行っている。
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