(1)日本産バラ属野生種のほとんどを含む15分類群とその他アジア産の種を中心とする19分類群の併せて34分類群につき、matK遺伝子の塩基配列を解析し、分子系統樹を作製した。ノイバラを始めとする日本産野生種を多く含むSynstylae節のすべての種と中国産のIndicae節の種が一つの分岐群を形成し、これらの2節が近縁であること、花柱形質(花柱ががく筒から突出する)が重要な分類指標であることが分かった。それに対して、オオタカネイバラ、ハマナスなどを含む、Rosa節はいくつかの分岐群に分かれ、多系統である可能性が示された。特にオオタカネイバラは他のRosa節の種とは大きく分けられた。 また、ハマナスはカラフトイバラと分岐群を形成し近縁であることが示された。 (2)matK遺伝子の解析と同様に日本産バラ属野生種の15分類群とその他の15分類群の併せて30分類群につき、ITS領域の塩基配列を解析し、分子系統樹を作製した。Synstylae節のすべての種が一つの分岐群を形成し、本節を特徴付ける花柱形質(花柱が突出し融合する)が重要な分類指標であることが分かった。本節中、ヤマイバラは栽培バラの重要な祖先種、R.moschataと類縁性が高いことが示され、この種の育種的利用価値の高さを裏付ける結果となった。Rosa節はmatk解析同様、いくつかの分岐群に分かれ、多系統である可能性が示された。このうち、オオタカネイバラはサンショウバラおよびナニワイバラと分岐群を形成し、これらの分類群間の類縁関係についての見直しの必要性が示された。 当初の計画に新たにITS領域の解析が加わったが、matK遺伝子と併せ、日本産野生バラの分類学的位置付けとそれらの問題点を明らかにすることができた。今後は、両遺伝子によって充分な解析ができなかった分類群について新たな遺伝子の検索が必要と思われる。
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