研究概要 |
ブドウ,モモ,ナシ,リンゴ,ヒワの雌ずい中における花粉管生長を制御する要因を調査した.まず,ブドウについては,従来明らかにした花粉管生長阻害物質(PGI)以外の機構を追求した結果,'巨峰'や'ピオーネ'などの4倍体品種で雌ずい内での花粉管生長が停止しやすいことの理由として,これらの品種では花粉管生長の良好な2倍体品種に比べて,子房内の隔壁組織において花粉管誘導組織(PTT;pollen tube transmitting tissue)の発達が著しく不良であることが新たに発見された.花蕾内でのPTTの発達過程を追跡した結果,'マスカット'などの2倍体品種では,開花1週間前には隔壁表面から内側4〜5層の細胞が円形化して広い細胞間隙を確保し,その感激に豊富な細胞外マトリックス(分泌物)を蓄積して,PTTとして花粉管生長を助ける機能を備えた.これに比べて,'巨峰'では開花3〜1週間前頃のPTT細胞の円形化と細胞間隙の拡大が著しく遅延または不活発であり,開花期に至っても隔壁表面の1または2層のみが,PTTとしての形態を示すに過ぎなかった.このことが,4倍体品種では花粉管の多くが子房組織内に入ったところで生長を停止し,不受精に終わる雌ずいが多く,結果的に結実不良を引き起こすものと考察された.モモ,ナシ,リンゴ,ビワについては,いずれもPTTの発達が形態的には良好であり,結実性を支配する要因とは考えられない.花粉管生長阻害物質も結実を直接的に支配するほど強い活性は認められなかった.
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