10属19種のうどんこ病菌のrDNA ITS領域の塩基配列を決定し、比較解析を行った。ITS領域のGC含量は大部分の菌で56-67%の範囲内にありGC richであったが、単子葉植物に寄生するBlumeria属菌では50-54%と比較的低かった。5.8S rRNA領域を含むITS領域の長さは475-563塩基の範囲にあった。供試したうどんこ病菌はITS領域の長さによりshort-ITSとlong-ITSの二つのグループに大別された。Erysiphe cichoracearumの長さは両者の中間にくるが、short-ITSグループに近い。このグループ分けは分生子の形成様式による類別と一致し、short-ITS groupはすべて分生子が連鎖状に形成されるのに対し、long-ITS groupはすべて単生型であった。このことから有性世代よりも無性世代の形質が系統関係をより強く反映すると考えられた。ITS領域の塩基配列は変異に富み、遠縁の菌間ではアラインメントが困難な場合があった。そこでITS領域のうち保存性の高い配列と5.8Sおよび28S(5'端のみ)のデータを用い、近隣結合法により系統樹を作成した。その結果供試したうどんこ病菌は4つのグループに大別された。このグループ分けはITS領域の長さによるグループ分けと一致し、2つのグループはE.cichoracearumを除きすべてlong-ITS groupに、残り2つのグループはすべてshort-ITS groupに属する菌であった。これら4つのグループは菌の形態や寄主範囲からも支持された。ITS2領域の塩基配列をもとにコンピューターにより二次構造を推定したところ、塩基配列が極めて多様であるにも関わらず、すべての供試菌で共通の二次構造を形成することが示唆された。同領域中の変異に富む部分、保存性の高い部分はこの二次構造から説明することが可能であった。このことから、ITS領域の塩基配列に基づく系統解析を行う場合、二次構造を念頭に置くことでより正確な解析が可能になると考えられる。
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