研究概要 |
日本産コナジラミ科の雌雄の配偶行動の過程で生じる雄の振動信号を音響学的に解析し,同時に雌雄の配偶行動を映像的に記録し,種に特徴的な形質を探索した.調査地は九州各地,および南西諸島の屋久島,奄美大島,沖縄本島,石垣島,西表島である.その結果,調査した全てのコナジラミ科の雄が腹部振動による種特有の波形からなる振動信号を出し,また特定の種は翅のディスプレイによる雌への交尾刺激行動を示した.さらに特定の種では雌が雄の信号に対して応答の振動信号を発した.これらの雌雄の交尾行動の通信システムは行動学的に固定した明瞭なシリーズからなり,振動信号の波形の時間的な配置を作出する腹部筋肉の律動に遺伝的な種的特性を示すことが分かった. コナジラミ科の交尾音は上宮(1995)によって初めて明らかにされ,著名な農業害虫種であるオンシツコナジラミ,タバココナジラミ,シルバーリーフコナジラミの3種がすでに報告されていたが,今回の研究の結果,ミカンコナジラミ族,オンシツコナジラミ族,カタバミコナジラミ族,マーラットコナジラミ族,トゲコナジラミ族,カンショコナジラミ族を含む15属22種(日本産既知種の1/3)の交尾信号が報告された.この研究で19種が新たに発見され,そのうち分類学的に種名の未確定のものが6種含まれる.また,南米原産でヨーロッパから東南アジアまで被害が記録されているグアバの侵入害虫のウーリーコナジラミの日本からの初記録もある. 交尾信号は波形が連続波,断続波,連続波+断続波の複合波に大別され,さらに周波数や信号の時間的構成によって各種が客観的に識別され,種ごとに不連続な音響特性を示すことから,近似種との区別が容易であることが明らかになり,これまでの成虫の形態形質で判別が困難であったコナジラミ科に有効な分類学的な情報を提供することとなった.交尾信号による多くの種の分類検索資料が蛹の映像データと対応してまとめられた.
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