本研究では、昆虫培養細胞を利用した真核生物遺伝子発現クローニングベクター系の開発に必要な基盤的技術の確立を目的とし、バキュロウイルスベクター発現系についてはウイルスDNAをヘルパーとした発現クローニング用プラスミドベクターの構築、また、ショウジョウバエS2細胞発現系については、ピューロマイシン耐性遺伝子(pac)を同時発現する発現クローニング用プラスミドベクターの構築を行い、以下の知見を得た。 1.バキュロウイルスベクターに関しては、カイコ核多角体病ウイルス(BmNPV)のトランスファーベクターpBM030(約11.4kbp)から、ポリヘドリンプロモーターとポリA付加シグナル及びその間のクローニングサイトを含むHpaI断片を切り出し、それをpBluescriptIIにクローニングして、発現クローニング用プラスミドpBM/Hpa(約5.8kbp)を作製した。pBM/Hpaに外来遺伝子(IHNVの表面糖タンパク質及びヌクレオカプシド遺伝子)を組込み、BmNPV DNAとともにリポフェクション法によりカイコ培養細胞BmN4にコトランスフェクトした結果、細胞中で外来遺伝子の発現が確認され、また、培養上清から組換えウイルスが得られた。 2.S2細胞に関しては、ヒートショックプロモーターとポリA付加シグナル及びその間にクローニングサイトを含む2種類の発現クローニング用プラスミドpDhsp(pac^+)とpDhsp(pac^-)を作製し、それぞれに緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を挿入し、pDhspGFP(pac^+)とpDhspGFP(pac^-)を構築した。前者は単独で、後者はpDhsp(pac^+)とともにS2細胞へリポフェクション法でトランスフェクトした結果、いずれの場合にもピューロマイシン耐性細胞が得られた。サザンハイブリダイゼーション及びウエスタンブロット分析により、pDhspGFP(pac^+)単独トランスフェクションで得られた耐性細胞に、より多くのGFP遺伝子及びその産物が存在することが判明した。
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