研究概要 |
ホウ素は高等植物の必須元素ながらその機能はいまだに明らかにされていない。申請者はホウ素が細胞壁で特異的にRG-II領域に結合しペクチンネットワークを形成していることを世界に先駆けて明らかにしてきた。さらにこのホウ酸ジエステル結合がカルシウムイオンによる配位結合によって補強されることを示した。本研究ではホウ素の欠除が細胞壁の完全性を損ない,これが細胞に死をもたらす過程を解析しようと,ホウ素欠除によって発現する遺伝子の単離を試みた。シロイヌナズナにホウ素欠除処理を行ったところ約24時間で根伸長の停止,根端の壊死が認められた。この植物体から常法に従いmRNAを抽出しディファレンシャルディスプレイ法によってホウ素欠除にともなって発現する遺伝子の同定を試みたところ,非常に多くの遺伝子が転写されており,特定の遺伝子に絞り込むことが困難であった。そこでホウ素欠除処理からmRNA抽出までの時間を,2,4,8,12時間として,転写されるDNAの質的,量的変動を検討している。しかし本質的問題はシロイヌナズナの場合根に特異的に発現する遺伝子だけを追跡することが難しいことなので,現在の試みは継続するが今後の展開を考え実験材料としてタバコ培養細胞での予備実験を行っている。タバコ培養細胞ではホウ素欠除処理後6時間で細胞死が始まり24時間後には約70%の細胞が死滅する。平成10年度はホウ素欠除後,2,4時間の細胞を用い同様の手法でタバコ培養細胞におけるホウ素欠除にともなう遺伝子発現の変化を追跡する。
|