トウモロコシ・フリント種・純系を供試し、苞葉を対象に葉面積拡大の支配要因について、主として炭素および窒素代謝との関連で解析した。遺伝的に苞葉の葉面積を異にするフリント種純系[CE-108(葉面積、大);CD-78(小);CM-37(無)などの6系統]を圃場で標準施肥条件下で栽培し、次の実験を実施した。絹糸抽出11-5日前の苞葉について、先端部(出葉し葉面積の拡大完了)、葉基部(未展開部、葉身の基部3cm)、中間部(未展開部)と葉を成熟度合いに従って3部位に分け、(1)葉面積、細胞の数・大きさ、(2)細胞壁の炭素化合物(セルロース、ヘミセルロース等)の構成多糖類含有率、(3)同窒素化合物(エクステンシンなどの各種タンパク質の組成)を測定した。 実験結果:(1)苞葉葉面積は系統間で異なったが、雌穂間で多少変動し、上位より下位雌穂で大きい場合が多かった。(2)苞葉葉面積の大きい系統では、細胞数よりも細胞サイズが大きく、この傾向は特に表皮細胞でより明瞭に観察された。(3)苞葉の発達過程における細胞壁各成分への分布状態をみると、各成分の含有率には著しい差異は無かったが、葉面積が小さい系統において、葉基部で早期よりセルロースおよびヘミセルロース含有率、とくに後者が上昇する傾向を示した。(4)苞葉では、先端部よりも葉面積拡大の旺盛な基部で窒素集積が著しく、細胞壁への窒素集積が特に顕著であった。すなわち、葉面積の拡大と、とくに細胞壁の合成に多量のタンパク質の集積が必要である可能性が推定される。以上の結果を総合すると、苞葉の葉面積の増大には細胞壁成分の合成、特にヘミセルロースの集積が重要であるが、この集積が葉面積拡大の早期より著しく活発になると葉面積の拡大は抑制される。葉面積の拡大には、多量のタンパク質の集積も不可欠であり、このタンパク質は各種酵素のみでなく細胞壁の構築にも関わっていると推定される。
|