根に取り込まれる窒素が同化され地上部への輸送が継続するためには、窒素同化に関連する酵素群の活性増加とともに窒素受容体である炭素骨格の供給増加が必要である。本研究の目的は、この炭素骨格の補充に必要な根の暗炭素固定の調節機構を解明することである。 暗炭素固定を触媒するフォスフォエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)活性はコムギ、オオムギ、トマトの根においてアンモニウム窒素の供与によって増加し、7日目でアンモニウム塩供与植物は硝酸塩供与植物の2〜2.5倍のPEPC活性を示した。この際、PEPCサブユニットタンパク質の量は抽出可能なPEPC活性を反映して増加した。トマト根から精製したPEPC活性はリンゴ酸、クエン酸、酸性アミノ酸により阻害された。したがって、根における炭素骨格の供給のために、PEPCの活性調節は酵素蛋白質の新規合成及び窒素の同化に伴って変化する代謝産物によってなされると考察された。 コムギ根の暗炭素固定速度はアンモニウム窒素の供与により顕著に増加するが、グルタミン合成酵素阻害剤のメチオニンスルフォキシミン(MSX)で処理するとこの暗炭素固定の促進は起こらなかった。コムギ植物の根において、アンモニウム供与に応答してPEPC活性は増加しPEPCタンパク質が集積した。MSXの存在条件ではPEPCの活性もタンパク質の量も増加しなかった。以上の結果から、根におけるアンモニウムの一次同化、すなわちその産物の生成は暗炭素固定を促進させるために決定的なできごとであること、暗炭素固定の促進は、アンモニウムが供与されたとき、PEPC酵素タンパク質の量的増加に基づく根のPEPC活性の増加と一致して起こることが明らかになった。
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