本研究は、真核性染色体のもつ特徴であるマルチレプリコンの複製開始制御機構を明らかにするための新しい解析技術を、蛍光in situ hybridization(FISH)法を駆使して確立することを目指し、以下のように展開した。まず、ファイバーFISHによるレプリコン解析法の開発を行った。DNAファイバー上でのBrdU検出とFISHを併用することにより、数kbの解像度をもつ複製の進行過程を数百kbの範囲で個々の細胞で視覚的に追跡できる。BrdUとFISHによるDNAの同時検出には成功したが、さらに安定したシグナル検出のため、本法の技術的基盤を見直した。ファイバー検出時のDNAの変性方法を種々検討した結果、アルカリ条件下で変性させることによって、分断の少ないライン状シグナルとして検出することに成功した。また、この変性条件下で検出したDNAのFISHシグナルもライン状に検出できた。細胞の高度同調法も確立し、ヒトHL60細胞をG1/S期に同調して、リリースとともにBrdUを取り込ませ、10-30分の間で時間に依存して複製鎖が進行することを安定したシグナルで確認できた。BrdUに続いてヨードウリジンを取り込ませる複製鎖のbidirectionalな検出にも成功した。BrdUとFISHの両者の同時検出にも成功した。今回の技術改良により、ヒトゲノム上のレプリコン・レプリコンクラスタードメインの初の提示が可能となろう。関連研究として、DNA複製前の核内のゲノムのパッケージング状態を、halo核標本に対してFISHを行うことにより解析し、インプリント遺伝子SNRPNでは発現している父親由来アレルがコンパクトにパッケージングされていることを示した。この結果は、転写されるアレルが複製前には強くパッケージングされていることを示唆している。SNRPNは父方アレルが母方アレルより先に複製することから、これらの結果は、この領域の複製機構を明らかにする上で極めて重要な知見である。
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